死別当時33歳の私享年72歳の父
お父さんが旅立った日から、書き綴った短歌です。 今は遠い貴方に届きますように。 まぶた伏せ 静かに眠り居る様は 昔のままの 優しい貴方 いずこより 聞きて訪(おとな)い賜いしや 老若男女の弔問の列 焼香の 途切るることなき人波に 真(まこと)の父の 人柄偲ばる ハンドルを 握る背中が何故かふと 貴方に見えて 涙こぼるる ※斎場に向かうタクシーにて 見覚えのある風景はいくたびか 貴方の背中越しに見た街並(まち) ※同上 願わくば 花に埋もるるその姿 留(とど )めおきたし 在りし日のまま 白檀の 香(こう)に送られ部屋を出づ 我に遺影の微笑みて見ゆ 初月忌 迎え季節は移るとも 父を想えば涙枯れざり ラジオから 流れる歌に そこここに 偲ばれいとし 父の面影 あるじ無き 部屋の片隅ひっそりと 夕陽を受くる 古き零戦 「お父さん」 呼べど応(いら)えのなきことの 淋しさを今 思い知る我 こんな日が 訪れること気づかずに 心閉ざした我の愚かさ 「ただいま」と 今にも貴方が扉(と)を開けて 帰り来るよなそんな気がして 袖通す ひとなき背広 春風に 揺れ居りてまた 父想われる 我が病 見舞いの足を遠ざけり 父は待てりと聞けば切なし 思い遣り深く優しき人なれば 何故に病は父選びしや 歳月(とき)を経て 色の褪せたる土産札 父は大事に取り置き給いぬ 夜空(そら)仰ぐ いずれの星が父なりや 届かぬ人になりぬとぞ思う 五膳分 揃いの鉢のひとつのみ みずやに残す 時ぞ悲しき 父宛の 郵便物が届くたび 何故かほっこり 胸あたたまる 木犀の 甘き香りの訪(おとな)いて 天の父にも届けと願(ねご)う 冷えきりし 我が手を包む温もりは 父と私の最後の思い出 馬乗りに なって起こした日曜日 仕事疲れを気づきもせずに マジンガーZ 始まる前までと 父と入(い)りにし 風呂の懐かし 白蓮華 摘みに行かむと自転車で ともに野道を往きし日もあり 午後六時 父と初めて待ち合わせ 向かいし先は 蔦の球場 梅田駅 見おろすカフェで向き合って ケーキ食べたね メガホン片手に 香里園 宇治 琵琶湖畔 中之島 腕組み歩みし 時はさかりて 一日(ひとひ)ごと 深みを帯びる空の青 父と旅せし夏の日想ほゆ 曼珠沙華 稲穂の脇に寄り添いて 共に参りし墓の偲ばる 北の空 見渡す窓に居並びて 夏の夜に咲く華を見にけり この夏も 祭りの宵はめぐりきて 写真(うつしえ)の父と空を仰ぎぬ ああ父よ 父よ 父よ 我が父よ 今ひとたびの逢うこともがな
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死んだ父の日展は、思い出が集まる追悼サイト「葬想式」を提供している株式会社むじょうが運営しています。

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